
対話型進化計算
対話型進化計算で感性に合うものを作ろう!
対話型進化計算は,人とコンピュータがコミュニケーションをとりながら,人の感性に合ったものを作成していく手法です.人の感性に合ったものとは,例えば衣服のデザインや配色,シューズデザインやファッションコーディネート,さらには,音楽や3D空間内のカメラワークなどの動画として表現されるなど多岐に渡ります.
対話型進化計算の概要
例えば,あるユーザがジョギングのときに履きたいランニングシューズをデザインしたいとき,
- まず,コンピュータがいくつかのランニングシューズデザイン案をユーザに提示します.
- 次に,ユーザは自身の感性や好みに基づいて「このデザインが好き!」「こっちのデザインはイマイチ…」というように提示されたデザイン案を評価します.
- そして,ユーザの評価情報をコンピュータにフィードバックし,コンピュータはユーザの評価に基づいて新しいデザイン案を作成し,再びユーザに提示します.

近年の製品開発分野などではユーザの感性に合った商品開発が求められており,対話型進化計算の応用が期待されていますが,対話型進化計算ではユーザの評価負担が大きいということが問題となっています.評価負担軽減には,アルゴリズムや評価インタフェースの改良など様々な取り組みがあります.私たちは「評価インタフェースの改良」の面からユーザの評価負担軽減を目指して研究を進めています.
評価インタフェースの改良方針
従来の対話型進化計算では,ユーザは提示された10~20個程度のデザインに対して5段階や10段階の評価値を与える評価インタフェースが主流です.しかし,これではユーザが評価値付けに迷ってしまい,評価負担が大きくなってしまうという問題があります.

そこで私たちは,煩わしい評価値付けを行う評価インタフェースを避け,ユーザが提示されたデザインの中から「好みのデザインだけを選択する評価インタフェース」を提案しました.これまでに,このような評価インタフェースとして,トーナメント形式でデザインを評価する「トーナメント式評価手法」,提示された複数のデザインの中から好みのデザインを1つだけ選択する「対話型タブーサーチ」などを提案しています.その他にも,視線や会話に基づく評価インタフェースの開発にも取り組んでいます.
トーナメント形式で評価
トーナメント式評価手法では,ユーザは提示された2つのデザインを比較し,好みのものを選択するという評価を繰り返します.特に,音楽や動画などの時系列データを評価する際には一度に比較するデザインが2つになり,ユーザの評価負担軽減に有効です.
トーナメント式評価手法には,提示された2つのデザインの中から好みのデザインを選択する「通常トーナメント方式」,提示された2つのデザインの中から “とても左のデザインが好き”や “少し右のデザインが好き”の要領でデザインを評価する「段階評価型トーナメント方式」の2種類があります.


好きなデザインを一つだけ選択
対話型タブーサーチでは,ユーザは提示されたデザインの中から好みのデザインを1つだけ選択します.一度に数個のデザインを比較するため,音楽や動画などの評価には不向きですが,静止画を評価する際には評価が単純になり,ユーザの評価負担軽減に有効です.

評価実験
これまで,実ユーザの代わりにコンピュータ上で生成された評価エージェントがデザインを評価する数値シミュレーションや実ユーザを対象とした評価実験を行ってきました.数値シミュレーションでは提案手法の基本性能について評価し,評価実験ではユーザにとっての評価のしやすさなどについて検証してきました.
これらの検証結果より,トーナメント式評価手法と対話型タブーサーチは,対話型進化計算のユーザの評価負担軽減に有効であることが認められています.
関連研究紹介
色特徴の時間的繋がりに着目した映画推薦システムに関する研究

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対話型進化計算によるコミュニケーションロボットの性格特性表現ジェスチャ最適化に関する研究

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参考文献
Hiroshi Takenouchi, Masataka Tokumaru, Noriaki Muranaka, “Tournament Evaluation System Applying Win-Lose Result Presumption Considering Kansei Evaluation by Multiple People”, Journal of Advanced Computational Intelligence and Intelligent Informatics, Vol.16, No.3, pp.453-461, 2012-05.
Hiroshi Takenouchi, Masataka Tokumaru, Noriaki Muranaka, “Interactive Evolutionary Computation Using a Tabu Search Algorithm”, IEICE TRANSACTIONS on Information and Systems, Vol.E96-D, No.3, pp.673-680, 2013-03.
堂前 翔哉,竹之内 宏,徳丸 正孝,“並列探索を用いた対話型タブーサーチに関する検討”,2013年度 人工知能学会全国大会,203-3in,2013-06(富山).
Hiroshi Takenouchi, Masataka Tokumaru, Noriaki Muranaka, “Tournament-style Evaluation using Kansei Evaluation”, International Journal of Affective Engineering, Vol.12, No.3, pp.395-407, 2013-09.
竹之内 宏,堂前 翔哉,徳丸 正孝,“並列対話型タブーサーチを用いたメンズファッションコーディネートのための仮想試着システムの構築”,2014年 電子情報通信学会総合大会,D-8-7,2014-03(新潟).
Kaito Nagayasu, Emmanuel Ayedoun, Masataka Tokumaru, “Enhancing Movie Discovery: A Serendipity-Driven Recommendation System based on Temporal Relevance of Color Features”, The 24th International Symposium on Advanced Intelligent Systems, TM1-4, pp.18-24, 2023-12 (Gwangju, Korea).
Ryoto Mikawa, Emmanuel Ayedoun, Masataka Tokumaru, “An IEC-driven Optimization of Gestures to Enhance Personality Traits in Communication Robots”, Joint 13th International Conference on Soft Computing and Intelligent Systems and 25th International Symposium on advanced Intelligent Systems (SCIS&ISIS 2024), S-1-E-5, 2024-11 (Himeji, Japan).