HCI Lab Research Topic: 感性検索システム

対話型進化計算で感性に合うものを作ろう!

対話型進化計算は,人とコンピュータがコミュニケーションをとりながら,人の感性に合ったものを作成していく手法です.人の感性に合ったものとは,例えば衣服のデザインや配色,シューズデザインやファッションコーディネート,さらには,音楽や3D空間内のカメラワークなどの動画として表現されるなど多岐に渡ります.

対話型進化計算の概要

それでは,対話型進化計算の仕組みについて簡単に見てみましょう.
例えば,あるユーザがジョギングのときに履きたいランニングシューズをデザインしたいとき,

  1. まず,コンピュータがいくつかのランニングシューズデザイン案をユーザに提示します.
  2. 次に,ユーザは自身の感性や好みに基づいて「このデザインが好き!」「こっちのデザインはイマイチ…」というように提示されたデザイン案を評価します.
  3. そして,ユーザの評価情報をコンピュータにフィードバックし,コンピュータはユーザの評価に基づいて新しいデザイン案を作成し,再びユーザに提示します.
これらの手順を繰り返し,ユーザの感性に合ったものを生成していきます.
システムのイメージ
対話型進化計算の概要

近年の製品開発分野などではユーザの感性に合った商品開発が求められており,対話型進化計算の応用が期待されていますが,対話型進化計算ではユーザの評価負担が大きいということが問題となっています.評価負担軽減には,アルゴリズムや評価インタフェースの改良など様々な取り組みがあります.私たちは「評価インタフェースの改良」の面からユーザの評価負担軽減を目指して研究を進めています.

評価インタフェースの改良方針

従来の対話型進化計算では,ユーザは提示された10~20個程度のデザインに対して5段階や10段階の評価値を与える評価インタフェースが主流です.しかし,これではユーザが評価値付けに迷ってしまい,評価負担が大きくなってしまうという問題があります.

システムのイメージ
10段階の評価を与える評価インタフェース

そこで私たちは,煩わしい評価値付けを行う評価インタフェースを避け,ユーザが提示されたデザインの中から「好みのデザインだけを選択する評価インタフェース」を提案しました.これまでに,このような評価インタフェースとして,トーナメント形式でデザインを評価する「トーナメント式評価手法」,提示された複数のデザインの中から好みのデザインを1つだけ選択する「対話型タブーサーチ」などを提案しています.その他にも,視線や会話に基づく評価インタフェースの開発にも取り組んでいます.

トーナメント形式で評価

トーナメント式評価手法では,ユーザは提示された2つのデザインを比較し,好みのものを選択するという評価を繰り返します.特に,音楽や動画などの時系列データを評価する際には一度に比較するデザインが2つになり,ユーザの評価負担軽減に有効です.
トーナメント式評価手法には,提示された2つのデザインの中から好みのデザインを選択する「通常トーナメント方式」,提示された2つのデザインの中から “とても左のデザインが好き”や “少し右のデザインが好き”の要領でデザインを評価する「段階評価型トーナメント方式」の2種類があります.

システムのイメージ
通常トーナメント方式


システムのイメージ
段階評価型トーナメント方式

好きなデザインを一つだけ選択

対話型タブーサーチでは,ユーザは提示されたデザインの中から好みのデザインを1つだけ選択します.一度に数個のデザインを比較するため,音楽や動画などの評価には不向きですが,静止画を評価する際には評価が単純になり,ユーザの評価負担軽減に有効です.

システムのイメージ
対話型タブーサーチ

評価実験

これまで,実ユーザの代わりにコンピュータ上で生成された評価エージェントがデザインを評価する数値シミュレーションや実ユーザを対象とした評価実験を行ってきました.数値シミュレーションでは提案手法の基本性能について評価し,評価実験ではユーザにとっての評価のしやすさなどについて検証してきました.
これらの検証結果より,トーナメント式評価手法と対話型タブーサーチは,対話型進化計算のユーザの評価負担軽減に有効であることが認められています.

その他にも,トーナメント式評価手法や対話型タブーサーチの応用システムの開発,ユーザが好み・好みでないデザインを複数個選択できる並列探索対話型タブーサーチの基本アルゴリズムの開発も行っています.

関連研究紹介

色特徴の時間的繋がりに着目した映画推薦システムに関する研究

システムのイメージ

本研究では,近年普及が進むサブスクリプション型映画配信サービスにおける新たな推薦システムを提案します.これらのプラットフォームには膨大な映画コンテンツが蓄積されており,ユーザーが映画を選択する際に課題を抱えることがあります.そのため,多くの映画配信サービスでは,こうした問題を軽減するために映画推薦システムを導入しています.しかし,従来の映画推薦システムは,映画の客観的な分類や主観的なユーザー評価に依存しているため,その推薦が予測可能になりがちです.本研究では,色彩データ内の時間的な映画情報を活用することで,ユーザーの映画選択プロセスにセレンディピティ(偶発的な幸運)をもたらし,ユーザーの期待を超える推薦を提供することを目的とした推薦システムを提案します.実験の結果,提案手法の有効性が示唆され,ユーザーにとって心地よい予期せぬ映画を推薦するシステムとして熟練していることが示されました.この研究により,ユーザーは従来の推薦システムでは出会えなかったような新しい映画を発見できるようになり,システム利用者の映画鑑賞体験の満足度が向上することが期待できます.

対話型進化計算によるコミュニケーションロボットの性格特性表現ジェスチャ最適化に関する研究

システムのイメージ

本研究では,ユーザーの好みに応じてコミュニケーションロボットの個性表現に用いるジェスチャーを最適化するシステムを提案しています.コミュニケーションロボットが人に親近感を抱かせるためには,友好的な印象を与えることが必要です.しかし,従来のロボットの個性は一般的な人間の印象に基づいて設計されており,個々のユーザーの好みを考慮していません.この課題に取り組むため,本システムでは,対話型進化計算(IEC)を用いて,ロボットの個性表現に用いられるジェスチャーをユーザーの特定の好みに合わせて最適化します.実験評価を通じてシステムの有効性を検証した結果,提案手法がロボットのユーザーに対する印象を向上させ,親近感を高めるのに役立つ可能性が示唆されました.この研究により,ロボットがより自然でパーソナライズされたコミュニケーションを提供できるようになり,システム利用者のロボットに対する満足度や親近感が向上することが期待できます.

参考文献

Hiroshi Takenouchi, Masataka Tokumaru, Noriaki Muranaka, “Tournament Evaluation System Applying Win-Lose Result Presumption Considering Kansei Evaluation by Multiple People”, Journal of Advanced Computational Intelligence and Intelligent Informatics, Vol.16, No.3, pp.453-461, 2012-05.

Hiroshi Takenouchi, Masataka Tokumaru, Noriaki Muranaka, “Interactive Evolutionary Computation Using a Tabu Search Algorithm”, IEICE TRANSACTIONS on Information and Systems, Vol.E96-D, No.3, pp.673-680, 2013-03.

堂前 翔哉,竹之内 宏,徳丸 正孝,“並列探索を用いた対話型タブーサーチに関する検討”,2013年度 人工知能学会全国大会,203-3in,2013-06(富山).

Hiroshi Takenouchi, Masataka Tokumaru, Noriaki Muranaka, “Tournament-style Evaluation using Kansei Evaluation”, International Journal of Affective Engineering, Vol.12, No.3, pp.395-407, 2013-09.

竹之内 宏,堂前 翔哉,徳丸 正孝,“並列対話型タブーサーチを用いたメンズファッションコーディネートのための仮想試着システムの構築”,2014年 電子情報通信学会総合大会,D-8-7,2014-03(新潟).

Kaito Nagayasu, Emmanuel Ayedoun, Masataka Tokumaru, “Enhancing Movie Discovery: A Serendipity-Driven Recommendation System based on Temporal Relevance of Color Features”, The 24th International Symposium on Advanced Intelligent Systems, TM1-4, pp.18-24, 2023-12 (Gwangju, Korea).

Ryoto Mikawa, Emmanuel Ayedoun, Masataka Tokumaru, “An IEC-driven Optimization of Gestures to Enhance Personality Traits in Communication Robots”, Joint 13th International Conference on Soft Computing and Intelligent Systems and 25th International Symposium on advanced Intelligent Systems (SCIS&ISIS 2024), S-1-E-5, 2024-11 (Himeji, Japan).